今年で39年目を迎えた世界有数のLGBTQIの祭典 『シドニー・ゲイ・アンド・レズビアン・マルディグラ2017』。 2017年2月17日~3月5日の約2週間にわたって繰り広げられたそのクライマックス、 184フロート/12,000人が行進し、25万人の観客が集まった、 マルディグラ・パレード(3月4日)のもようをリポートする。
初めてのオーストラリア。シドニーだ、南半球だ、夏だ!
まだまだ寒い東京を飛び出し、スーツケースにはお気に入りの競パンを数枚しのばせ、シドニー国際空港に到着したのはパレード当日の朝。厚い雲が垂れ込め、時折、小雨が降るあいにくの空模様。気温は20数℃。半袖では少々肌寒い。光り輝く南半球の夏の太陽は一体どこへ⁉︎ ちょっぴり気分萎え気味で、ホテルのあるオックスフォード・ストリートに向かう。ゲイエリアとして世界的に有名で、パレードのルートでもあるオックスフォード・ストリート。一歩そのエリアに入ると、店先やらマンションのベランダやら至るところに、レインボーフラッグ! 普段から見慣れているはずなのに、異国の地シドニーで、それもマルディグラ・パレードの朝に見るのはやっぱり格別で、テンション急上昇。レインボーにこれほどまで反応してしまうとは、「いつの間にか骨の髄までアクティビストになってしまったんだなぁ」と、我ながら苦笑い。
パレードのスタートは午後7時30分。3時間前の16時30分に、椅子をレンタルし、かぶりつきの好位置に陣取った。太陽が傾いていくにつれ、沿道には二重三重と人垣ができていく。ストリートの交通が遮断され、ピンクやイエローのTシャツを着たスタッフが配置につく。前説担当のお兄さんがホイッスルを吹きながら、観客に歓声をあげる練習をして場の空気を温める。さらに空がたそがれ、そろそろかなと息を潜めていると、ブオ~ン、バオ~ン! という爆音とともに、「Dykes on Bikes」のレズビアンのお姐様たちがバイクにまたがって颯爽と登場。ニューヨークもサンフランシスコも、ここシドニーも、欧米のプライドパレードの皮切りは、「Dykes on Bikes」が担うことが多い。DykesのあとにBoysのバイクが続き、彼らがひとしきり爆音を轟かせたあと、いよいよ、思い思いのフロートやコスチューム、音楽やダンスを伴うパレードの始まりである。
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会場警備をするボランティアスタッフ。
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「Dykes on Bikes」がパレードの先頭を飾る。
排気ガスの臭いがまだ辺りに漂うなか登場したのは「First Nations」。オーストラリア先住民アボリジニのLGBTQI当事者のフロートだ。続いて「Sydney Gay and Lesbian Mardi Gras 78ers」。シドニー・マルディグラの出発点となる1978年6月24日の同性愛者たちのデモ行進に参加した人たちのフロート。イギリスの植民地だったオーストラリアは長らく同性愛が違法で、南オーストラリア州で合法化されたのが1975年、シドニーのあるニューサウスウェールズ州は1984年。つまり、1978年当時はまだシドニーでは同性愛は違法で、この時のデモの主催者や参加者の中には、警察に逮捕されたりメディアにアウティングされた人もいた。そういった忌まわしい過去を乗り越えてきた人たちが78ersなのだ。彼らレジェンドたちの後に、ようやく主催者のフロートが続く。今年のテーマ「Creating Equality」にちなみ、「EQUALITY」の文字を立体化して路上に浮き上がらせた(※2017年12月7日、オーストラリアでは同性婚が合法化された)。
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オーストラリアの先住民アボリジニのLGBTQI当事者とその家族や友人、支援者のグループによる「First Nations」のフロート。
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「シドニー マルディグラ」のスタートとなる1978年のデモ行進に参加したレジェンドたちが、ダブルデッカーバスに乗って行進。リスペクトの拍手で迎えられる。
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「EQUALITY」の文字を立体化して、今年のテーマ「Creating Equality」を表現。
この調子で一つ一つフロートを紹介していたら、いくら文字数を使っても足りやしない。何せ全部で184ものフロートが行進するのだから。それでも、冒頭のこの3つのフロートを見るだけで、主催者や豪州のLGBTQIコミュニティが何をいま大切にしているのか、そのエッセンスが知れるというものである。
乗用車からトラック、バスまで大小様々な車両にデコレーションを施したフロートが何台も眼前を通り過ぎていく。夜に行われるマルディグラ・パレードは、特に照明の効果的な使い方も見どころの一つだ。参加者たちは思い思いのコスチュームで音楽に合わせて踊り、歓声をあげ、観客を盛り上げる。セクシュアリティ、人種、民族、国籍、職業、宗教などといった属性や、企業、NPO、行政、スポーツや音楽のサークルなど、多種多様な人たちで構成された184のグループ。皆が皆、年に一度のこのお祭りを心から楽しみ、そして、観客を魅了し楽しませてくれる。だからと言って単にHappy!と騒いでいるだけでなく、どのグループもプラカードや横断幕で訴えたいメッセージはきちんと投げかけてくる。初めて観覧したマルディグラ・パレードは、さながら、青森のねぶた祭と徳島の阿波踊り、それにディズニーランドのエレクトリカルパレードをミックスしたような、パレード界のトリプルスリー的な一大スペクタクルであった。
次回2018年は40周年の記念の年となるシドニー・マルディグラ。「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損々」と、来年はぜひ、東京レインボープライドからフロートを出せたらいいなぁ。そんな夢を抱きながら、「A Fabulous Future」と題された、ラストを飾る主催者フロートを見送った。
取材・文/山縣真矢 (特定非営利活動法人 東京レインボープライド 共同代表理事)
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2016年12月25日に亡くなったオープンリーゲイの歌手ジョージ・マイケルを追悼するフロート。
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「#weaccept」をテーマにした宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのSNS「エアビーアンドビー」のフロート。
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シドニー大学のLGBTQIの学生、スタッフ、アライのグループのフロート。テーマは「Roar with Pride」。
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同性間も含め、シドニー西部のDV被害女性のための避難所を運営し、支援と宿泊施設を提供している「SHELTER」フロート。
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オーストラリアで人気の13人制ラグビーのプロリーグ「NRL」のフロート。
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主催者とAGNSW(NSW州立美術館)がコラボした「ANDY'S SHOE」フロート。4つの年代のアンディ・ウォーホルがハイヒールの中に。
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シドニーのあるNSW州公式の海洋救助や海洋調査研究を行うボランティア組織のフロート。
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カジノをはじめとするエンターテインメント施設「THE STAR」のゴージャスなフロート。
■『シドニー・ゲイ・アンド・レズビアン・マルディグラ2017 パレード』
日時:2017年3月4日(土)19時30分~
参加者数:観客25万人、184フロート/12,000人が行進
テーマ:「Creating Equality」
公式サイト:http://www.mardigras.org.au