学生による学生のためのフリーシェアスペースを主軸事業として展開する株式会社賢者屋。「関わる全ての人の幸せのために居場所となるサービスをつくる」というメッセージを大切にしている同社では、インターンをはじめとする若い LGBT当事者とアライがD&I(ダイバーシティ・アンド・インクルージョン)プロジェクトとして、LGBTへの理解増進のためにさまざまなプロジェクトを行っている。実際に同社で施策に取り組んでいる皆さんに話を聞いた。
企業理念に根ざした多様性と包摂への取り組み
−−−−D&Iプロジェクトに取り組むことになったのは、どのような理由からですか?
福永真衣(以下福永) 弊社では「関わる全ての人の幸せのために居場所となるサービスをつくる」というメッセージを大切にしながら事業展開を進めています。そのメッセージの中にある「関わる全ての人の幸せのために」という部分には、ユーザーやクライアントだけでなく、社員にとっての幸福感追求も遂行し続けたいという社長の思いが詰まっています。だからこそ、まだ創業5期目に入った若いベンチャー企業ではありますが、社員がパパになっても、ママになっても、セクシュアルマイノリティでも、誰でも自然体で働き続けられる会社環境をつくりたいという思いから、私たちにとってLGBTフレンドリー企業を目指すことは当たり前だったということです。
−−−−具体的には、どのような取り組みをなさっているのでしょうか?
福永 以前より「LGBT研修」という社内研修を年に数回、外部講師に頼んで実施していたのですが、昨年からは弊社の新卒採用においても多くの取り組みを行っています。例えば、昨年の8月と9月に『ichoose session』というLGBTフレンドリーな企業だけを集めた合同説明会に参加したほか、11月には『リアル・ジョブレインボー』にもLGBTフレンドリーな企業として参加しました。昨年12月と今年2月には、株式会社JobRainbow さんとの共催で『LGBTの幸せを追求する1DAY インターンシップ』も実施しています。このイベントでは「LGBTの幸せを追求する」新規事業を立案するためのグループワークやLGBTに関する課題の共有といったワークショップを1日かけて行っています。
インターンが中心となってイベントを企画運営
−−−−こういったイベントの企画立案や実施にインターンの皆さんが活躍しているそうですね。
高橋拓也(以下高橋) 私は、昨年8月の『ichoose session』で初めてLGBTフレンドリ ー企業としての『株式会社賢者屋』を知ったのですが、昨年9月の『ichoose session』では既に賢者屋の企業側として参加していました。昨年12月と今年2月に開催された1DAY インターンシップも、インターン生の私たちが中心となって、まさに当事者による当事者のためのイベントをつくったんです。東京レインボープライドへのゴールドスポンサーもインターン生の声から実現に至った取り組みなんですよ。インターン生の声からスポンサーが実現する企業って、なかなか無いのではないかと思います。
仲宗根忠史(以下仲宗根) 私は、高橋が企画運営を仕切っていた2月の1DAY インターンシップに参加者側として参加したことがきっかけで、今年4月から長期インターンを始めています。私は自分がゲイであることを隠さず自然体で働ける弊社で当事者目線だからわかる、想いや悩みを社内で共有し、5月のレインボーウィークに実施する『LGBTの幸せを追求する1DAY インターンシップ』の企画にも反映しています。
−−−−割合としてはどのくらいのLGBT当事者が社内にいるのですか?
仲宗根 もちろん正確にはわかりませんが、体感として社内全体の2割くらいにはなるんじゃないでしょうか。
−−−−多様性を体現していると言えるかもしれませんね。
仲宗根 自分のことを隠さずに自然体で働くことのできる点に惹かれて、インターンになることを決めました。実際に働いてみて感じるのは、誰かの幸せを自分の幸せにできる人ばかりが社内で働いているので、すごく温かい人が多いなと感じています。今は賢者屋という環境で、セクシュアリティをオープンにし、みんなからも受け入れられているので、気兼ねなく働くことができています。
住田直樹(以下住田) 私は、昨年からインターンを始めて、今年4月に入社しました。ストレート・アライの私にとっても自然体で働ける居心地のいい会社です。今年6月にリリースされる新サービスも、立ち上げを任せていただいています。若くても新サービスの立ち上げから運営まで任せてもらえる環境は、将来的に事業の立ち上げを目指している私には魅力的でした。
求めているのは “旗を立てられる人”
−−−−お話を聞いているとインターンの皆さんがとてもいきいき働いていると感じます。
福永 よく皆さんにそう言われるんですが、実際にインターン生を近くで見ている者としては、いきいきしているというより、みんなすごく考えたり悩んだりしているというのが正直な印象です。ただ、共通しているのは楽しくて働い ているから、いきいきして見えるのだと思います。インターン生であっても難しい課題に挑戦してもらって、考える力を入社までに養ってもらいます。というのも、当社が求める人財は「旗を立てられる人」なんです。つまり、試行錯誤を重ね、課題を解決しながらゼロイチを繰り返したり、新しい事業開発や社内の制度づくりも若いうちから実行していける人ということですね。
−−−−2019 卒のインターン生である、お二人は今の経験を活かして、将来、どんな “旗” を立てたいですか?
仲宗根 私は、ゲイバーが好きなんです。なぜなら、自分のことを隠さず、ありのままの自分で誰かとお喋りができる空間だからです。しかし、そのような空間が、セクシュアルマイノリティの中高生向けに対しては非常に少ないと感じています。そこで、セクシュアルマイノリティの中高生でも気軽に足を運べて、自分のことを隠さず、ありのままの自分で喋ることができるカフェのような「居場所」を将来的には提供したいと考えています。そのためにインターンを通して、新事業の立ち上げについて学んでいきたいと思います。
高橋 私はXジェンダーなのですが、男でも女でもない自分はなんなのだろうという居心地の悪さがいつもありました。賢者屋ではセクシュアリティではなく、個人として見てもらえるので居心地がいいんです。私は新潟の出身ですが、地方では特にこういった自分らしくいられる場所が少ないと思います。将来はコミュニティの少ない地方にも「居場所」を展開したいですね。
それぞれの︎個性を活かせる企業、そして社会を実現したい
福永 実は対外的にLGBTフレンドリー企業だと発信し始めたのは最近なんです。というのも、弊社の社長が「見せかけのダイバーシティ」を非常に嫌っていて、まずは社内から多様性を尊重する価値観を醸成させるために始まったのが「LGBT研修」でした。そこから新卒採用での取り組みや東京レインボープライドへの協賛に輪を広げています。今後も企業イメージのためだけの「見せかけのダイバーシティ」に終わらせず、正確な理解の上で実のある取り組みにしていきたいですね。
−−−−ダイバーシティ採用に企業としてどのようなメリットを感じていますか?
福永 私自身、ストレート・アライなのですが、採用においてLGBTを含めたマイノリティの方は弊社と相性がいいと思っています。働く際に大事なのはお互いの価値観が合うかだと思っていて、それは弊社でいうと自分や他人の幸せについて思考を回し続けられるかどうかなんです。採用でいろんな方とお話しするのですが、マイノリティの方たちは幸せについて、しっかり自分なりの考えを持っている方が多いなと思います。そういった、それぞれが持つ自分らしさを長所として活かしていける企業、そして、そんな社会を実現していきたいですね。
−−−−具体的な事業展開としてはなにか構想はありますか?
福永 直近では、2018年6月に新サービスを、そして2019年度にはLGBT向けの新たな事業をキックオフする予定です。また2020年度中に全国7地方全てに賢者屋を展開するというのが私たちの大きな目標となっています。これが実現すると国内の大学生の10人に1人が賢者屋のサービスを利用するようになるんです。最終的には、幅広い世代に対するサービス提供を考えているので、誰もが生涯のどこかで賢者屋が提供しているサービスに関わるというような世界を目指しています。私たちは「居場所」というオフラインを大切にしながら、関わる全ての人が幸せを感じられるサービスを提供し続けるつもりです。
取材・文/宇田川しい
■東京レインボーウィーク初開催
過去70名の学生さんが参加した全国のLGBTQ+ALLY学生が、「LGBTQ+の幸せ作り」について考える1DAYインターンシップを今年度は、TRP2018プライドウィークにて初めて開催します。地方学生の皆さんには交通費補助や宿泊先提供などの特典もある特別企画となっておりますので、是非御参加いただけると嬉しいです。
詳細はコチラから→ https://ichoose.jp/detail.html&id=190
株式会社賢者屋
〒160-0023
東京都新宿区西新宿7-2-6 西新宿K-1ビル5F
2013年に東京・新宿で学生限定のフリースペースの運営を開始。学生による学生のための居場所づくりというコンセプトが好評を博し利用者が年々増加。
2015年には大阪・梅田にも店舗展開。現在では年間7万人を超える学生が利用するコミュニティスポットに成長した。学生と企業のビジネスコラボや採用支援も積極的に行っている。
http://kenjaya.com